お役立ち情報

“7S”で考える病院経営のトップ方針 ~“4つの経営機能”で整理する病院経営の具体策~

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

弊社ではこれまで累計で“1,600件”を超える病院の経営支援を行ってまいりました。今回は、弊社お役立ち情報で先日公開した「地域共生社会を創造するための病院経営戦略」の中で触れた、”7S“を軸に病院経営の具体策について論考してみます。

【地域共生社会を創造するための病院経営戦略
~“4つの経営機能”を活かした医療MaaS・DXの実現~】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-114097/

地域共生社会を実現する“4つの経営機能”マトリクス

上記のレポートでは、弊社が考案した“4つの経営機能”を元に、今後求められる地域共生社会(※ⅰ)に向けた取り組みを下図のように整理しました。

地域共生社会を病院経営の視点から見ると“基幹施設”⇒“関連施設”⇒“連携施設”⇒“地域産業”、という横軸で事業としては広がっていきます。一方、その実現の具体策を考える際に、弊社の“4つの経営機能”のフレームワークでは、“トップ方針”、“戦略・計画”、“役割・権限”、“実行プロセス”の縦軸で取り組むことが整理できるため、それをマトリクス化しました。上記レポートで私は“M&Aとは異なる組織の7Sの融合”だと思っていると述べました。今回は、この“7S”について、少し深掘りして考えてみます。

トップ方針を可視化する7S

“7S (※ⅱ)”とは事業戦略における、幾つかの要素(Shared value(共通価値観・経営理念)、Style(意思決定スタイル・社風)、Staff(人材)、Skill(スキル・能力)、Strategy(戦略)、Structure(組織構造)、System(システム・制度))の相互関係を表わすものです。

まさに経営者が成し遂げたい経営理念・パーパスや戦略、意思決定スタイルや組織構造などが盛り込まれています。また、各要素は関連して、それぞれが影響し合っています。そのため、組織のパフォーマンスを最大化するには下図のように7Sの整合性がカギになります。

特にM&Aや地域医療連携推進法人など異なる組織が融合または共働する際には、この7Sの複雑性が増します。複雑な各種要素を融合しなければ、シナジーを発揮することができません。そこで、前回のレポートで私は“M&Aとは異なる組織の7Sの融合”だと思っていると述べました。M&A前の人事DD(Due Diligence)でも、それぞれの組織の7Sを把握しておくことが大事になります。そのため、グループ病院や地域医療連携推進法人に限らず、私がお客様の経営分析(各種データの分析やヒアリングなど定量・定性分析)をする際には、必ず7Sで整理し、その整合性をチェックするようにしています。

経営者ヒアリングなどを踏まえて、トップ方針を7Sとして言語化し、それを仕組みとしてのシステムで実現することが、我々コンサルタントの役割です。私の専門である医師マネジメントや病院DXの領域で言えば、それぞれ医師人事制度やHIS(病院情報システム)の整備にあたります。両者とも7Sの中のSystemの整備・統合です。人事制度(組織システム)や情報システムなど、仕組み化することで再現性を確保して、持続的なPDCAサイクルが回るようになります。ご支援する際には7S分析を行い、他の6Sで見つかった課題をSystemで対応し、具体的なソリューションにしています。

複数施設を持つ場合にはPPMで戦略を描く

上記レポートでも触れましたが、7Sのうち“戦略”について、複数施設を持つ法人の場合は、PPM(※ⅲ) (Product Portfolio Management)で整理するようにしています。PPMは、“市場成長率×市場シェア”というマトリクスで整理するポピュラーな経営戦略立案のフレームワークです。病院で考えれば、各都道府県の地域医療構想で各病床機能の市場成長率は明示されています。また、DPCデータを用いれば、MDC分類だけでなくDPCコード単位でも二次医療圏内シェアなどの市場シェアデータは入手可能です。なお、弊社では病院経営分析システムLibraを用いて、こうしたデータ分析を行っています。

【病院経営分析システムLibra】https://sdb-libra.jp/

地域によって若干の違いはありますが、多くの二次医療圏においては急性期病床と慢性期病床が過剰となっており、回復期病床や在宅医療機能が不足しています。つまり、急性期病床と慢性期病床の市場成長率は低く、回復期病床や在宅医療の市場成長率は高いということになります。各病院で市場シェアは異なるので、前述したLibraなどを用いて、診療科や疾患単位での市場シェアを見ていく必要があります。それをPPMでイメージすると以下になります。

特に、複数施設を保有しているグループ病院や異なる医療・介護機能が連携している地域医療連携推進法人では、組織全体のPPMを作成して「機能転換すべき病棟・施設はどこか?」「実行の徹底で市場シェアを上げられそうな診療科・施設はどこか?」を特定しておく必要があります。この課題箇所の特定がポイントです。

コンサルティング業界では、問題解決のフレームワークとして「What⇒Where⇒Why⇒How」を活用することがあります。①何が問題か?、②それはどこで起きているか?、③なぜ起きたのか?、④どうすべきか?、という問題解決思考のステップです。③Why(真因分析)と④How(解決策)に焦点がいきがちですが、大事な論点として②Where(課題箇所の特定)があります。この②課題箇所の特定ができていないと、適切な③真因分析と④解決策の立案につながりません。前述したように、組織全体のPPMを作成し、課題箇所を特定しておくことがポイントになります。

なお、PPMは複数事業体の事業構成(ポートフォリオ)を可視化して、戦略を描くだけではありません。下図のように市場シェアで売上の多寡を、市場成長率で投資の必要性を分類し、“利益の創出しやすさ”“投資対象領域”も可視化します。それによって、投資判断にも活かせるファイナンス領域のフレームワークでもあります。

先日のレポートで指摘したように地域共生社会を目指す場合、医療MaaSの「交通×医療×介護」のようにヘルスケア業界を超えた取り組みとなることになります。従来とは異なり、他業界のような事業投資も必要となるため、こうした投資戦略についてもPPMで検討しておくことが望ましいでしょう。

「経営力=戦略の妥当性×実行の徹底度」

弊社では「経営力=戦略の妥当性×実行の徹底度」という公式で経営力の高め方をお伝えすることが多いです。まさに前述したPPMで整理した戦略・計画を実現するには、「①戦略(医療・介護機能)を転換する」「②実行の徹底度で市場シェアを上げる」というステップが必要になります。この“戦略の妥当性×実行の徹底度”というかけ算が経営力を高めていくことになります。

そして、この「②実行の徹底度で市場シェアを上げる」際に、その取り組みを一過性にせず、再現性を持って持続させるのがSystemです。そこで、その具体策として(医師を含む)病院人事制度とHIS(病院情報システム)の整備を行っています。

さらに、以前弊社お役立ち情報の以下のレポートの「標準化を阻害する「ワガママ行動」」の章で指摘したように“病院DXと医師マネジメントは不可分”です。

【グループガバナンスを高める医師マネジメント
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-finance-organization-quality-103062/

医療現場において決定権・影響力の大きな医師が我流を貫くと、周りへの影響は甚大です。そうなればDX推進においてポイントとなるシステム化・標準化が進まなくなります。そこで、“病院DXの前提として医師マネジメントが必要”となってきます。

パーパス経営を実現する“4つの経営機能”

冒頭でご紹介した「地域共生社会を創造するための病院経営戦略」というレポートで詳述したように、生産年齢人口が減少していく中で、地域共生社会の実現は病院経営戦略として必須になってきます。地域共生社会の定義から考えれば、その起点は、経営者の“Shared value (共通価値観・経営理念)”、京セラ創業者の故・稲盛和夫氏風に言えば“フィロソフィ”、そして、いま風に言えば“パーパス”になると思います。パーパス経営を実現するには、トップ方針を7Sで言語化しておくことが重要です。

このように“4つの経営機能”を整理していく際に、7SやPPMなどのポピュラーなビジネスフレームワークも組み合わせることで、その取り組みは具体的なものになります。前述した医師マネジメントにおいても、以前の弊社レポートで触れたようにBSC(※ⅳ)を参考にすることで、組織システムと管理会計システムが連携して作用し、事業計画を実現する推進力になります。

【BSCを活かした医師マネジメント】
https://nkgr.co.jp/useful/hospital-strategy-organization-95184/

ぜひ、“4つの経営機能”を軸に、今回ご紹介した7SやPPMなどを組み合わせてトップ方針を言語化し、具体的な病院経営の戦略・計画を描いてみてはいかがでしょうか。

なお、弊社では複数病院・施設を保有するグループ病院の支援が増えています。本レポートで紹介した病院経営分析システムLibraの“グループ病院管理機能”と医師マネジメントシステムを組み合わせてPDCAサイクル化した事例も増えています。これらを「医師マネジメント強化パッケージ」として、パッケージ化しています。下記をご参考ください。

【医師数が多い大規模病院・グループ病院向け
 医師マネジメント強化パッケージ】
https://nkgr.co.jp/wp-content/uploads/2024/10/6d70ba3d46821142607fb26de721573e.pdf

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※ⅰ https://www.mhlw.go.jp/kyouseisyakaiportal/
   出所:厚生労働省「地域共生社会のポータルサイト」
※ⅱ https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-12513.html
   出所:グロービス経営大学院 MBA用語集「7S Seven S Mode」
※ⅲ https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-20790.html
   出所:グロービス経営大学院 MBA用語集「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント PPM」
※ⅳ https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-11920.html
   出所:グロービス経営大学院 MBA用語集「バランスト・スコアカード(BSC)」
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「医師マネジメント専門サイト」も、ご活用ください

本稿の執筆者

太田昇蔵(おおた しょうぞう)
株式会社日本経営 部長

大規模民間急性期病院の医事課を経て、2007 年入社。電子カルテなど医療情報システム導入支援を経て、2012 年病院経営コンサルティング部門に異動。
現在、医師マネジメントが特に求められる医師数の多いグループ病院・中核病院のコンサルティングを統括。2005年西南学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、 2017 年グロービス経営大学院 MBA コース修了。

株式会社日本経営

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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